転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


90 注文の多い依頼とマジックバッグ



「それではこの指名依頼用に、冒険者ギルドからこれを貸し出します」

 そう言うとルルモアさんは僕の前に小さな濃い青紫色の巾着袋を差し出した。

 えっと……依頼って確かブレードスワローを3匹狩って来るだけだよね? じゃあこれって何に使うものなの?

 そう思った僕はルルモアさんとその巾着袋を何度か見比べて、首を傾げる。
 するとその様子を見たルルモアさんが、笑いながらこう言ったんだ。 

「いきなり渡されても解らないわよね。これはマジックバッグよ。貴重なものだから無くさないようにね」

 マジックバッグ? って言うとあれだよね、いっぱい物が入るマジックアイテム。
 でもそう教えてもらっても、そもそもブレードスワローを狩ってくるだけの依頼に何でこんな物が必要なのかが解んないんだよね。

 それをルルモアさんに言うと、こんな答えが帰って来たんだ。

「ブレードスワローの依頼書だけど、実は結構前から貼ってあったから多くの人がその報酬額を知っているのよ」

 ブレードスワローを獲るのが難しいからこその高い報酬なんだけど、それだけに獲ってきたものをぶら下げて街まで帰ってくるとその報酬目当てに襲ってくる人がいるかもしれないんだって。

「おまけにルディーン君はまだ8歳と小さいでしょ? ならそのルディーン君をさらってカールフェルトさんからブレードスワローを横取りしようとしたりする人が出てきては困るし、そうじゃなくても力ずくで奪いに来た人との戦闘で折角のブレードスワローが傷付いたりしたら大変でしょ。だからギルドから、このマジックバッグを貸し出す事にしたのよ」

 ルルモアさんからしたら、僕がさらわれる事もお父さんが悪もんに負けちゃう事もありえないって思ってるらしいんだけど、奇襲されてブレードスワローがダメになっちゃう可能性があるからってこれを貸してくれる気になったんだってさ。

「でもこれは冒険者ギルドからしてもかなり貴重なものだから、貸すからにはちゃんと3匹獲ってきてよ。あと、狩る時は頭ではなく体を狙ってね。できたらなるべく傷が少ないと嬉しいのよね。何せ相手は剥製を見てブレードスワローが欲しいと依頼してきているんだから」

 そっか。確かに頭をマジックミサイルで撃ち抜くと、羽は取れるしお肉にも影響はないけど剥製にはできないよね。

「ならお肉にちょっと傷が付くけどいい? いいなら頭や羽を避けて魔法、撃つけど」

「ええ、それでお願い。剥製にした奴も体の胸辺りを貫いたものを使ったからね。あそこなら風切り羽と違って修正が効き易いからいい物が作れるはずよ」

 胸? 胸かぁ。となると前の方から撃たないといけないから気付かれやすいんだけどなぁ。
 でもまぁ絶対にできないわけじゃないし、飛んでくマジックミサイルが当たる寸前まで木の葉っぱとかで気づかれないような位置から撃てばいっか。

 レベルが上がって索敵魔法の精度も上がってるし、なんとかなるよね。

 ただ索敵範囲が変わってないのがなぁ。
 これは多分レンジャーのレベルが1のままだからなんだろうけど……村に帰ってお兄ちゃんたちに森に連れて行って貰えた時は、魔法を使わずに弓だけで狩り、してみるかな?

「ちょっと難しいかもしれないけど、なんとかやってみるよ」

「お願いよ。じゃないと、マジックバッグを貸した私が叱られるんだから」

 なんと、このマジックバッグの貸し出しはルルモアさんの独断らしい。
 そう言えばさっきギルドマスターの所に頼みに行ったのは、依頼書のレベル制限を特例で解除してもらう事だけだったよね。

「いいの? 僕に勝手に貸しちゃっても?」

「大丈夫よ。文句を言われたら、ギルドマスターがお酒で口を滑らすからこんな依頼を受諾しなくちゃいけなくなったんじゃないですかって言い返すから」

 そう言って笑うルルモアさん。
 その笑顔を受けて、僕は目の前に置いてある巾着袋にもう一度目を向けたんだ。

 改めて青紫色の巾着袋を見ると、袋の真ん中に丸で囲んだ一筆書きの星、一般的に五芒星とかペンタグラムって呼ばれている記号が書いてあって、その5つの頂点にそれぞれ一つずつ小豆くらいの大きさの青紫色の石が飾りのようについていた。

 あれ、この石って魔石だよね? 何の魔石なんだろう。

 ちょっと気にはなったんだけど、流石にここで調べるわけにはいかないから宿に帰ってから鑑定解析で調べようかな。
 後このマジックバッグ、魔道リキッドを入れる場所がないみたいなんだけど、どうやって動いてるのかな?

「ねぇ、ルルモアさん。このマジックバッグって魔道具だよね? どうやって動いてるの? 魔道リキッドを入れるとこが無いみたいだけど、もしかして魔法が使える人専用?」

「ああそっか、ルディーン君は魔道具の事も知ってるのよね。なら不思議に思うのも当たり前か」

 ルルモアさんはそう言うと、失敗失敗と言いながら自分の頭の後ろを手の平で軽く叩いた。
 そしてその後、僕に教えてくれたんだ。

「マジックバッグはね、物を入れる時と物を出す時だけ魔力を消費するのよ。ほら、ここに5つ魔石が付いているでしょ? だからこの5つの魔石それぞれに魔力を注いで置けばその魔力が切れるまでの間は物の出し入れできるから、わざわざ魔道リキッドで魔力を補充する必要が無いのよ」

 なるほど、そう言う事か。

 魔道具に魔道リキッドが必要なのはその道具を使う為に結構な魔力が必要だからなんだ。
 例えば僕が最初に作った小さな風車をまわす魔道具なら、ホーンラビットの魔石に注入した魔力だけでも3日以上回り続けるんだよね。
 このマジックバッグもそれと同じで、この5つの魔石に魔力を注いでしまえば、しばらくの間は物の出し入れができるんだろうね。

「そっか。じゃあどれくらいの間、出し入れできるの?」

「そうねぇ。この大きさのマジックバッグだと、毎日数回出し入れするだけなら一度の注入で一月は使えるんじゃないかしら。ただこのマジックバッグは容量が小さいからブレードスワローなら10匹以上入るだろうけど、ジャイアントラッドなんかを入れたら2〜3匹で一杯になっちゃうから注意してね。ラッドを入れてたからブレードスワローが入らなかったなんてのは無しよ」

「うん、解ったよ」

 多分ほかの魔道具と同じで、使われている魔石の大きさで中に入る量が変るんじゃないかな? ならこんな小さな魔石を使ってるんだもん、ちょっとしか入らないのは当たり前だよね。

「ちょっと待ってください」

 そんな事を考えながらルルモアさんに返事をしてたら、急にお父さんが横から話に割り込んできた。どうしたんだろうって思った僕たちは、二人とも視線をお父さんに向けると、

「ジャイアントラッドがこんな小さな巾着の口から入るわけ無いじゃないですか。それ以前にブレードスワローでも入れる事は難しそうだし。いや依頼の為に貸し出すのだから実際には入るんだろうけど……ルディーン、入れ方は解ってるのか? 現場に行って解りませんじゃ困るぞ」

 ああそっか。確かにマジックバッグを初めて見た僕がその使い方を知っているのはおかしいよね。
 なんとなくドラゴン&マジック・オンラインのストレージや拡張マジックバッグと同じなんじゃないかなぁって思ってたから、気付かなかったよ。

 と言う訳でルルモアさんに目を向けると。

「あら、ルディーン君がマジックバッグの使い方より先にリキッドの事を聞いてきたから、てっきり解ってると思ったわ。と言うかルディーン君。実は知ってるでしょ? 使い方。魔道具の本で読んだの?」

 そんな風に言われてしまった。
 でもまぁそう思ってもらえたのなら、それでいいよね。
 
「えっと、このマジックバッグの口を開いて入れたい物に触ればいいんだよね。で、出す時はそれを思い浮かべながら袋に手を突っ込んで取り出す」

「そうよ。なんだ、やっぱり知ってるんじゃない」

 正確に言うとドラゴン&マジック・オンラインのころは入れたいものの前でストレージを開いて入れたり、ストレージの一覧から出してただけなんだけど、現実にマジックバッグが目の前にあるのなら同じように袋の口を開けてからそれをやればいいんじゃないかって思ったんだ。
 そしたらそれがあってたって訳だ。

「なるほど、ルディーンは解ってたから聞かなかったんだな」

「うん。魔道具の事は僕に任せてくれればいいよ。あんまり変なもんだと解んないかもしれないけど、普通のならみんな動かせると思うから」

 納得してくれたお父さんに、僕は笑いながらそう言ったんだ。


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